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暗闇でも見える君 ①
「本当にしつこいわね。」
金髪ツインテールというどこぞの英国風お嬢様みたいな魔術師が、髪をはらいながらため息をついた。
その優雅さに当麻は、そいつが今まで激闘を行っていた敵なのかと疑いたくなった。
「これで、勘弁してくれない?」
しかし、英国風お嬢様は、壮絶な笑みを浮かべ、持っていたゴブレットを傾ける。
途端に大量の赤い液体が津波のように当麻へと襲いかかってきた。
最初はこの大津波に驚いたが、当麻は慌てずに右手を津波へと突きだす。
すると、右手が触れた所からモーゼが行ったように波が二つに裂けた。
大津波といえど、所詮魔術で作り出したもの。
当麻の右手に宿る幻想殺しの力の前では無力だ。
横を熱風が駆け、当麻は思わず目を顰める。
ステイルが割れた波間を炎剣と共に走り、お嬢様めがけて炎剣を振るった。
「私は、ほんのちょっとだけ、学園都市が混乱してくれればいいだけなんだけど?」
お嬢様は、赤い液体で作られた槍で、炎剣を受け止める。
手の部分にはフォークの様な物が見える。
「それが迷惑だと言っているんだ。僕の仕事が増える。」
ステイルが不機嫌そうに呟き、お嬢様から距離を取った。
そして、すぐさま炎剣を振るう。
今度は一度だけではなく、何度も。
しかし、お嬢様はそれを容易く、受け止めていた。
「大変ね。イギリス清教の魔術師は。」
「巻き込まれるこっちの方が大変だけどな!!」
隙を見て、当麻はお嬢様の背後に回り込んでいた。
ステイルが大振りで炎剣を振り回していたのは目くらましの意味もあったのだ。
思わず槍を向けるお嬢様だが、当麻の右手が槍に触れると、一瞬で破裂するように消えてしまった。
お嬢様は慌てて距離を置き、新たな槍を作り出す。
「・・・やっぱり、邪魔ね。その右手。」
お嬢様が顔を歪める。
そして、胸に指していた一輪の赤いバラを取りだす。
途端、鞭のように赤い液体が当麻達へと襲いかかって来た。
それをステイルは炎剣で、当麻は右手で受け止める。
「あらあら?この手は先程、貴方達が行ったモノよ?」
当麻のすぐ後ろからお嬢様の声が聞こえた。
「しまっ!」
当麻は慌てて振り返り、右手を突きだす。
しかし、その攻撃は魔術や超能力といった異能の攻撃ではなかった。
液体が右手にかかり、阻みきれなかったものが当麻の目にかかった。
「ぐっ、あ!」
目に焼けるような痛みが走る。
敵が目の前にいるというのに、目が開けていられない。
「上条当麻!!」
ステイルの声と、熱気が当麻に届く。
「大丈夫かい?」
珍しく心配な声音がステイルの口から出た。
思わず、大丈夫、と言いかけて、当麻は言葉を飲み込む。
「ステイル、ごめん。目が見えない・・・。」
目の前が完全なる暗闇だった。
本来は目を閉じていても、瞼から透ける光が見える。
しかし、今は黒色しか見えなかった。
「さて、これで邪魔者は消えたわ、ね!!」
お嬢様の声に被って、風を切る音が聞こえた。
バラから作られたムチが振られたのだ。
「くそ・・・。」
視覚に頼り切っていた当麻には、音だけでは状況が判断できない。
そして、ステイルだけでは水を扱うお嬢様には不利なのだ。
どうすればいいか、当麻は必死で考える。
しかし、その間にも、風切り音は当麻達に近付いてきている。
「借りるよ。」
ステイルが小さく呟いた。
そして、右手に暖かい何かが触れた。
ステイルの手だ。
炎の近くに居た所為で、熱い掌が当麻の右手に触れ、手首を握った。
ゴツゴツとした感触は、たぶん、ステイルが嵌めているシルバーリング。
当麻は掌を広げた。
右手が持ち上げられて、前へと突きだされる。
パンッ
何かが弾けて消えた。
たぶんそれは、お嬢様が振っていたムチ。
「消せても、攻撃ができないんじゃ、駄目なんじゃない?」
クスクス、と笑い声が聞こえた。
「大丈夫だ。もう十分、目くらましはできたからね。」
ステイルが笑みを含んだ声で言う。
「イノケンティウス!!」
ステイルの宣言。
感じる熱気が一気に増した。
「くっ!こんなの隠してたとは、ね!」
バシャンと、波の音がした。
しかし、すぐにジャワッと水が蒸発する音が聞こえた。
たぶん、お嬢様が津波を起こしたが、イノケンティウスの熱気で、蒸発してしまい、攻撃が不発に終わっているのだろう。
「なっ!?何で炎が消えないの!!」
お嬢様の驚愕の声が響き渡る。
その後、断続的な波の音と、蒸発の音が響く。
お嬢様がゴブレットから水を出し続けているのだろう。
「上条当麻、一瞬だ。」
ステイルが言った。
無茶だろう、と思ったが、やるしかない。
風切り音と共に、熱気が高まり、先程より大きな蒸発音が聞こえた。
その時、当麻は熱気の塊を通り過ぎ、駆けた。
左手で、波の壁を伝いながら、当麻はさらに駆ける。
イノケンティウスの攻撃で割れた波。
一定間隔にある波の壁を頼りに、当麻はお嬢様を目指す。
「いやっ!」
もう少しという所で波音が迫る。
しかし、それは居場所を知らせる決定的な音。
当麻は迫った波を右手で消した。
「そこかぁぁぁぁぁ!!」
聞こえた声、そして、攻撃の音。
当麻は勘だけを頼りに拳を振るう。
そして、拳は人を殴りつける感触を正しく伝えてくれた。