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知ってる英語は?アイラブユー

Know Love

少し浮かれていた。
ステイルにしては珍しく浮かれていたのだ。
今回は任務でも何でもなく、学園都市に行けるのだ。
仕事も奇跡的に休みが取れたので、思う存分羽を広げられる。
実際は遊びに行くわけではないのだが、ステイルとしては似たようなものだ。
英語の家庭教師など。
発端は、土御門からの連絡。
『カミやんがどうしても英語を教えてほしいらしいぜよ。』
からかい混じりのこの言葉。
しかし、拒否する理由もなく、渋々ながら、内心では喜んで、頷いた。
土日、そして振り替え休日、この3日間。
集中的に当麻へと英語を教える事になった。
もちろん、泊まり込み。
インデックスと久しぶりに過ごせる。
「・・・何年振りだろうね。」
小さい頃はずっと一緒だった。
でも・・・。
「本当に、久しぶりだ。」
そんな風に柄にもなく浮かれていたのに・・・。
「・・・・・・。」
「すみません、ステイルさん。」
「過ぎた事はどうでもいい。」
「でも、絶対に楽しみにしてたよな。」
「うるさい。」
「でも、これはインデックスの気遣いであって・・・。」
「それは何回も聞いた。」
「・・・本当にすみません。」
上条宅にはインデックスはいなかったのだ。
どうやら、当麻の勉強の邪魔をしたくないという事で、知り合いの家へ泊まりに行ってしまったようだ。
「もう良いと言っているだろ。無駄口を叩いてないで手を動かしたらどうだ。」
楽しみを裏切られてしまったが、頼まれた事はちゃんとやろうとは思っているのだ。
まずは当麻が出されたという課題を先に片づけることにした。
当麻は未だに申し訳なさそうにしながらも、課題のプリントへと目を向けた。
「あーえーと、justiceは・・・。」
「分からない単語は自分で引けよ。勉強にならないからね。」
「はいはい・・・。」
当麻は億劫そうに辞書を開き、単語を調べる。
「あー、正義か。」
なるほど~、と頷き、当麻はプリントに書かれた長文を目で追う。
「・・・・・・。」
その横顔をステイルは眺めてみた。
当麻が分からない、と躓かない限り、暇なのだ。
黙っていたら、悪くない、と思う。
さほど端正というわけではないが、人好きのする顔ではある。
性格は極度のお人よし。
だけど、途中で放り出すことはなく、その優しさを全うする。
強敵にも立ち向か勇気があるが、時々バカじゃないかと思うほどの強敵にも立ち向かったりする。
全てを一人で背負おうとして、こちらが一緒に背負うと言わなければ、押しつぶされようが何をされようがボロボロのまま闘うのだ。
気付けよ、と思うが、気付かないのが彼で、でも、そんな彼が放っておけずに、助けてしまう。
出会った人間のほとんどが、彼のお人よしに絆されて、好きになって、ついていく。
「・・・上条当麻。」
ステイルは静かに呼びかけた。
「ん?」
当麻は顔を上げ、首を傾げた。
「ここ、違うよ。これはひっかけで、ほら、ここが過去形になってる。」
「あ・・・マジかよ。」
は~、と当麻はため息をつきながら、自分の書いた答えを消し、再びその問題を考え始める。
そんな真面目ぶった顔が普通にカッコいいと思う。
たくさんの人々に愛されている彼。
しかし、彼を独占できるのはインデックスくらいだろう。
彼は誰に対しても優しくて、誰だろうとも助けるから。
唯一は一緒に住んでいるインデックスだけ。
そこで、ステイルはふと気付く。
この3日間だけは、彼を独占できる事に。
神裂でもなく、五和でもなく、オルソラでもなく、自分が。
彼を独占している。
それは不思議な気持ちで、でも、なぜか嫌な気持ちではなかった。
ちょっとした優越感。
闘いも何もないから、感じる事が出来た感情。
こんなにも平和ではなかったら、こんな気持ちを抱く事はなかっただろう。
「また間違ってるんだが。」
「・・・えーと、どこでしょうか?」
しかし、ステイルはそんな事をまったく顔に出さずに、回答の間違いを指摘した。

「ん~~、疲れた~~。」
当麻が伸びをして机に突っ伏す。
時計を見ると、ちょうど昼食の時間だった。
「休憩するかい?」
「よっしゃー!昼、どうする?家にあるのは、じゃがいもとー、人参とー、玉葱とー、あー、この前安かったから、鳥の胸肉買えたんだった。」
「そのラインナップじゃ、僕は一つしか思いつけないんだけど。」
「じゃあ、カレー作るか。」
当麻は立ち上がると、さっそくキッチンに向かった。
「何をすればいい?」
ステイルも立ち上がり、袖を捲くった。
「じゃあ、じゃがいもの皮むき、頼む。」
「了解。」
当麻からピーラーとじゃがいもを受け取り、作業を始める。
「・・・なんだか、人が料理を手伝ってくれるって、いいな~。」
すると、なぜかしみじみと、そう言われてしまった。
「まぁ、インデックスは不器用だし、君に甘えているからね。」
手早くじゃがいもの皮をむきながら、応える。
「あ、でも、インデックス。」
当麻は皮をむいた玉葱を切りながら、微笑んだ。
「紅茶とスコーンの作り方は完璧なんだぜ。」
ステイルの手が思わず止まった。
「しかも、さっき、ステイルが淹れてくれた紅茶の味にそっくりだった。」
「・・・紅茶なんて、だいたい似たような味さ。」
ステイルは素っ気なく言う。
紅茶は淹れ方によって、味が大幅に変わると自分が知っているのに。
「じゃあ、スコーンもか?」
当麻は意地悪く訊いてきた。
「・・・・・・。」
さすがに、今度はそうだと言えず、ステイルは黙る。
「よし!おやつはスコーンだな!」
「・・・分かったよ。」
たぶん、そのおやつはインデックスが作ったものと同じ味がするのだろう。

2人で仲良くとは言い難い雰囲気(途中、中辛か辛口かで揉めた)で作ったカレー(結局、中辛のルーと辛口のルーを混ぜた)を食べ終わり、午前中では終わらなかった課題の続きを始めた。
「だから、助詞と助動詞は・・・。」
「主語はこれだろ?で・・・動詞は・・・。」
「そうそう、この文は・・・。」
集中して勉強していると、時間を忘れてしまっていた。
ふと時計を見ると、もう4時だった。
「上条当麻、どうするんだい?」
「ん?」
「4時だよ。」
「おやつだー!」
「・・・はいはい。」
ステイルは苦笑とともに立ち上がった。
「あっ!」
その時、不意に当麻が声を上げた。
「・・・小麦粉、買い忘れてた。」
「じゃあ、買い物に行くかい?ついでに夕飯の食材も買えばいいだろ。」
ステイルはため息をつき、私腹用の黒いジャケットを手に取った。
「だな。」
当麻も頷き、自分の上着を取るために、立ち上がった。

で、気軽に出かけたのに、ただでは済まないのが、不幸な男、上条当麻なのだ。
to be continued

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