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暗闇でも見える君⑦

帰り道。
もう、ステイルとは手を繋げなかった。
人混みの中、赤い髪の目印に歩く。
さっきまでは、とても幸せだったから、彼とはぐれてしまうという不幸が起きそうで、当麻は必死で歩く。
しかし、当麻は当麻で、不幸は直しようがない。
「うわ、ごめんな、さい!ぶっ!?」
「あらーん、大胆な子ねー。」
「ち、違います!本当にすみません!って、ステイルさん!どこにいらっしゃるのですかー!?」
胸の大きなお姉さんにぶつかっている間に、離れ離れになってしまった。
「ふ、不幸だ・・・。」
当麻はガクリと肩を下ろし、トボトボと歩く。
こんな人混みの中、誰か一人はするだろう。
ポイ捨て。
そして、そんな捨てられた缶は踏んだらとても危険だ。
踏む奴など、そうそういないだろう?
いや、ここにいる。
「へ?」
当麻の身体が後方へグラリと揺れる。
誰かがポイ捨てをした缶を踏んでしまったのだ。
「ヤバッ!」
こんな人混みの中で転んだら、さらなる不幸が待っているに決まっている。
しかし、当麻はどうする事も出来ずに、倒れる事しかできない。
朝もこんな事があったと、ふと思い出す。
その時は、ステイルが助けてくれた。
しかし、ここにはステイルはいない。
また、助けてくれたらいいのに。
そう思うとは、随分自分は我儘らしい。
(そんな事ありえな・・・。)
トンッ
背中に何かが当たった。
思わず瞑っていた目を開けると、そこにはステイルがいた。
「君は、目が見えても見なくても同じなんじゃないかい?」
「え・・・?」
信じられなかった。
目の前の光景がまったく信じられなかった。
なぜ、彼がいるのだろうか。
「ほら、行くよ。」
ステイルは呆けている当麻に構わずに、当麻の手を握った。
そして、黙々と歩きだす。
(なんで、本当に助けるんだよ・・・!)
当麻は俯き、引っ張られるままに歩く。
(そんな事されたら・・・。)
ステイルに握られていない方の手を当麻は、グッと握り込んだ。
(もっと好きに、もっと欲しくなるだろ!)
好きだと言うだけで満足できていたのに。
そんなカッコイイ所を見せられた、もっと好きになってしまう。
不幸な自分など、あそこで転んで、不良にぶつかって、追いかけられて、ボロボロになって、家に帰って、ステイルに呆れられるぐらいでいいのだ。
助けないでほしかった。
「・・・上条当麻。」
不意にステイルが呟き、立ち止まった。
そこは、もう寮の前だった。
学生達はまだどこかで遊んでいるようで、当麻達以外に人気はなかった。
「・・・君には、インデックスも、神裂も、オルソラも・・・たくさんいるだろう?」
ステイルが浮かべていたのは、悲しげな顔。
なぜ、そんな顔をするのだろうか。
「いいかい?僕が君に優しくしたのは、君の目が見えなくなった責任の一端が僕にあるからだ。それだけだ。だから、今回の好意で何かを勘違いしているとしたら、」
「違う。」
当麻はステイルの言葉を遮り、強く言った。
ステイルが何を言いたいのか正直、良く分からないが、なぜか直感で違うと思った。
「何が違うっていうんだい?」
ステイルの口調に怒りが混じる。
「だったら、なんで!君が僕を好きになるっていうんだ!!」
当麻はその言葉に硬直した。
まさか、聞こえていた?
本当に小さく呟いたのに。
あんな大きな音が周りに響いていたのに。
・・・聞こえていた?
「君のまわりにはたくさんにいて、なのに、わざわざ男で、いろいろ君に酷い事をした僕を好きに・・・!」
「・・・なんでだろうな。」
当麻は困惑しながら呟く。
「・・・7月に出会って、で、この前、法の書の時に一緒に闘って・・・気が付いたら好きになってたんだよな。」
あはは、と当麻は照れくさそうに笑った。
「まぁ、お前の事が好きって気付いたのは今朝だけどな。でも、たぶん、好きになったのは・・・たぶんもっと前だろうだ。」
「・・・君はマゾか何かかい?僕は君を燃やそうとしたし、囮にしたし、蹴りもしたよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん、違う!と、思います。」
クスッとステイルが笑った。
その笑みがあまりにも綺麗で、当麻は思わずステイルの腕を引いて、身体が傾いたところで彼の首に手を回した。
「ステイル、好き。」
今度は彼に聞こえるようにハッキリと言った。
「誰よりも好きだ。」
言葉と共にキスを送る。
ステイルは驚いた、でも、嬉しそうな、そして、泣きそうな顔をした。
「僕は・・・本当は・・・嫌いな奴に優しくできるほど、寛大じゃない・・・。」
たぶんこれが、素直じゃないステイルの精一杯の告白なんだと思う。
「・・・わざと、食べさせなきゃいけない料理を作ったのは下心からだったり?」
ちょっとだけ意地悪く聞くと、ステイルの顔が面白いぐらいに赤くなった。
図星だったようでそっぽを向いて、拗ねてしまった。
「ステイル、俺も好きだよ。」
機嫌を直してもらおうと、好意は受け取ったと言外に込めて言う。
「・・・ん。」
ステイルは小さく頷いて、くれた。
「ステイル、大好きだぜ!」


季節外れの花火に負けないぐらい、君に伝えよう。



+あとがき+
ちょっと上ステスランプに陥ってました。
オリジナルと別の二次ばっか書いてました。
本当にすみません。
もう1月ですよ。夏に書いてたのに!夏のネタなのに!
最後は苦し紛れにいつ読んでも大丈夫なように、季節外れてって入れておけば大丈夫だよねってノリです。
本当に、放置期間が長くてすみませんでした!!

ニコニコでまさかの上ステ発言っていうタグがあってね、法の書でこんな見方が!?ってたぎったんだよ。
だから書けたんだ。
 

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暗闇でも見える君⑥

昼食の後、ふと思い出した。
「ステイル、昨日言った事だけどさ。」
「うん?」
「ほら、俺もお前との想い出を作りたいって言う・・・。」
「ああ。」
ステイルの気の無い返事に、当麻は躊躇した。
彼にとって、どうでもいい事だったのだろうか。
当たり前だ。
嫌いな相手との思い出なんて・・・。
ぐるぐると考えていると、ステイルが不意に呟いた。
「・・・花火大会。」
「へ?」
「今日、あるみたいだね。」
心臓がドクドクと鳴る。
痛い、だけど、なぜか力が湧いた。
「行こう!一緒に行こう!」
勢いよく言うと、ステイルは驚いた気配を見せた。
ハッと気づき、当麻は俯き、言い訳し始める。
「あ、いや、別に、嫌ならいいぜ。誰も男同士でそんなのに行きたく・・・。」
「良いよ。」
ステイルの言葉に、当麻は目を見開く。
「君と、一緒に行っても良いよ・・・。」
その言葉は信じられなかった。
だけど、とても幸せな言葉だった。
「・・・おう!行こう!」
花火大会は夜の7時から。
今は昼の1時だから、後6時間。
どうしようか。
朝はずっとステイルと話していた。
イギリスの文化を尋ねるフリをして、ステイルの事をずっと聞いていた。
本当はもっと聞きたいが、質問攻めだとステイルも嫌がるかもしれない。
どうしようか・・・。
「さて。」
その時、ステイルが尋ねてきた。
「イギリスや必要悪の教会について、散々教えたんだから、次は日本や学園都市だろう?」
「そ、そうだな!でも、ステイルは日本について結構知っているし・・・。」
自分に教えられる事などあるのだろうか。
「じゃあ、学園都市のカルキュラムって具体的にどんな事をしているんだい?」
「ああ、俺がやったのは・・・。」
6時間など、あっという間に過ぎていた。
おやつを挟んだが、ずっとステイルと話していたら、もう夕方になってしまった。
その頃には当麻の目も、大分見えるようになり、1人で身の回りの事ぐらいはできるようになっていた。
「さぁ、行こうか。」
ステイルが手を差し出す。
まだ、外を1人で歩くのは危険だ。
浴衣なんかなくて、2人とも普段着だが、当麻の胸は高鳴っていた。
「おう!」
ステイルと一緒に花火が見れる。
もうそれだけで、当麻にとっては幸せだった。
道路に出てみると、花火を見ようと会場へ向かう学生で一杯だった。
だから、男2人が手を繋いでる所なんて、誰にも見えないぐらいだ。
手を繋いでいてもはぐれてしまいそうな程の人混みをかき分けて進む。
ステイルの手が痛いぐらいに握られる。
当麻も、ステイルの事を放したくない、そう少しの独占欲を込めて握り返す。
そうして、ようやく着いた会場。
川の片側の土手。
涼しい風が、人混みの熱気を冷ましてくれていた。
「始まるよ。」
ステイルの声と共に、ヒュゥ、と空気を裂く音が聞こえ、そして・・・。
ぼやける視界に色鮮やかな花が浮かんだ。
「あ・・・。」
思わず感嘆の声が漏れる。
直後、大きな、ドン、と言う音に周りのざわめきが一瞬消えた。
「綺麗だな。」
音が聞こえた時を見計らい、当麻はステイルへと声をかける。
「ああ・・・。」
ステイルの頬笑みが色鮮やかに、当麻の目に映った。
ぼやけていた視界が今、晴れた。
完全に見えるようになった目は、ただ、好きな人を映していた。
ヒュゥ
花火が上がり、ステイルの顔が空へと向く。
緑の光がステイルを照らした。
ドン
「好きだ。」
花火の音と共に、当麻は呟いた。
聞こえなかった様で、ステイルの顔に変化はない。
当麻はホッとして、さらに呟いた。
ドン
「好きだよ。」
ドン
「ステイルの事が。」
ドン
「好きだ。」
花火が打ち上がるたびに呟いた。
その呟きは届かない。
届かなくて、いいんだ。
小さな声で、呟き続ける。
ドン
「好き。」
一緒に花火を見上げて。
ドン
「誰よりも。」
君への愛を呟いた。
決して叶わない恋だと知っているから、届かないように。
でも、言いたいんだ。
伝えたいんだ。
ドン
「好きだ。」
 

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夏に書きあげたかった・・・!

暗闇でも見える君⑤

朝起きたら、トントントン、と何かをまな板の上で切っている音がした。
目を開くと、目の前が真っ白だった。
「ステイル!白い!目の前が白い!」
当麻は嬉しくなり、叫ぶ。
途端、気付いた。
これは目が治る兆候だ。
後、少しで目は完全に視力を取り戻すだろう。
目が治ったら・・・。
「という事は、もうすぐ治るね。」
白い視界の中でも、ステイルの持つ鮮やかな赤は、うっすらと見えた。
「ようやく肩の荷が降りるよ。」
ふぅと息を吐く音。
当麻は今更、嘘をついたと言いたくなった。
ステイルを驚かせるための嘘だと。
本当は何も見えなくて、目の前は真っ暗なままだと。
しかし、当麻は思わず手を伸ばしていた。
1日、いや、半日ぐらいしか経っていないというのに、その色を見るのがとても久しぶりに思えて・・・。
ステイルの髪を掴んでいた。
「見えるのかい?」
嬉しそうなステイルの声に、嘘だなんて言えなかった。
「これ、ステイルの髪?」
分かりながらも、当麻はあえて訊いた。
「ああ。」
「赤は、見えるんだ。」
「赤?」
ステイルの不思議そうな声。
夕日の赤の様に、光の中で赤は人の目に届きやすいとか、理屈はたくさんあるけど、たぶん、今口にするべき答えは違う。
「お前の赤だから・・・。」
「それは違うだろ。」
一蹴された。
「もう朝食は出来てるから、早く起きたまえ。」
手から髪が離れていく。
それと同時に、ステイルの気配も傍から消えた。
(まだ、仲良くなれないんだな・・・。)
昨日の夜、少しだけ近付いたと思ったのに。
ステイルの反応の所為で気が抜けてしまうと、欠伸が出てきた。
「ふぁ・・・。」
大きく一つ欠伸をして、目を擦る。
すると、赤しか見えなかった視界が、うっすらと景色も見えてきた。
かろうじて色が分かるだけなので、まだ生活には苦労しそうだが。
たぶん、あそこがちゃぶ台だろうという場所に目を向け、当麻は立ち上がる。
そろり、そろり、と進んでいくと、何か踏んだ。
たぶん、雑誌。
そう判断した瞬間、ずるりと足が滑り、体が傾く。
「げっ!」
しかも受け身が難しい後ろへと身体は傾いていく。
このままでは、後頭部を打ちつけてしまう。
しかし、当麻は何もできずに、ただ来るだろう衝撃に備えて、固く目を瞑った。
「たくっ・・・君はどれだけドジなんだい?」
予想外の軽い衝撃が背中に当たり、そのまま熱に包まれる。
声に目を開けば、赤が目の前にあった。
「申し訳ありません・・・。」
本当は、ドジじゃなくて不幸なんですー、とか言ってやりたかったが、目の前同様、頭も真っ白で何も言えなかった。
あまりにもステイルがカッコよくて、心臓がドキドキして、平静を装うのに精一杯で・・・。
(なんでこう、あっさり助けられるんだよ!!)
当麻は起き上がり、慌ててステイルの身体から離れる。
「また転ぶよ。」
しかし、今度は手を握られる。
他意はないと分かっているのに、当麻の心臓は高鳴ってしまう。
そして、気付いた。
「・・・指輪・・・。」
ステイルが指輪をしていない事に。
「ああ、君が昨日痛そうにしていたから、とっくにはずしたよ。」
「そ、そっか。サンキュ。」
どうして分かったのだろうか。
そんなに態度に出していたわけでもないのに。
考えているうちに、当麻はちゃぶ台の前へと座らされていた。
「今日の朝食は、オムレツとサラダとスコーンだよ。」
「あ、朝でも、スコーンって食べるのか?」
「甘くないのをね。」
「へ~。」
会話によって、気を紛らわせようとするが、当麻は考えてしまう。
また食べさせてもらわなければ、食べられないメニューだと。
昨日はまだ、平気だった。
「はい。」
ステイルが差しだすモノを当麻はぎこちなく口の中に入れる。
「・・・美味しいです。」
「それはなによりだ。」
ステイルが当然と言う様に、しかし、少し嬉しそうに言った。
本当は、味なんて分からなかった。
心臓の音がうるさくて、頭は真っ白で、何も考えられなくて・・・。
いつの間にか食事は終わっていた。
当麻は片付けられたちゃぶ台の上に、顔を突っ伏した。
なぜだろうか、ステイルの言動一つ一つに心臓が高鳴る。
触られたところが、じんわりと暖かくて、まだ熱を持っているかのように錯覚する。
こんな経験は初めて、どうすればいいのか分からない。
当麻の短すぎる人生では、まったく分からない。
振動が鳴り過ぎて、痛い。
切なく、キュン、と痛い。
身体が、熱い。
だけど、とても幸せな暖かさだ。
(ん・・・?)
似たような症状をどこかで見た事がある気がする。
漫画やテレビで見たような・・・。
「上条当麻?」
ステイルの声に振動がドキンッと鳴った。
もう自分は重症なようだ。
彼に名前を呼ばれただけで、こんなにも心臓が煩くなるなんて。
もう、これはアレしかないじゃないか。
「どうしたんだい?」
ステイルの心配そうな声が、とても嬉しいなんて。
漫画でよくあるアレだ。
「な、なんでもない!」
当麻は慌てて起き上がり、首を横に振った。
「そうかい?」
「ああ!」
そんなわけがない。
男同士だ。
ありえるはずがない。
それに、ステイルはインデックスが好きで・・・。
ズキリと痛む胸に、確信するしかなかった。

上条当麻は、恋をしているのだ。
ステイル・マグヌスが好きなのだ。

(そっか・・・俺は、ステイルが好きなんだ・・・。)
叶わない恋だと分かっているのに、どうしようもなく、好きになってしまった。
(どうすれば、いいんだろうな・・・。)
 

 

 

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暗闇でも見える君 ④


ステイルと風呂に入るという事に少しだけ緊張したが、別に何事もなかった。
自分の体は目が見えなくても洗えるのだ。
シャンプーや石鹸の位置さえ分かれば、後は長年の経験で分かる。
狭い湯船なので2人で入る事ができず、交互に入った。
出た後も、体は自分で拭けたし、服も着れた。
「・・・意外に目が見えなくても、やっていけるもんだなー。」
風呂上がりのぼんやりとした時間。
当麻はそう呟き、音だけでテレビを見ていた。
「体は意外に日々の生活を覚えているモノだしね。」
ステイルがそう言いながら、冷たい麦茶の入ったコップを手渡してくれた。
食べ物は1人では難しかったが、飲み物は簡単だ。
しかし、一度机の上に置くのは面倒なので、ずっと手に持っておく。
「・・・なぁ、ステイル。」
見えないはずのコップを見るように俯きながら、呟く。
「ん?なんだい?」
「お前って、良い奴だよな。」
明るく言ったつもりだが、少し言葉が震えてしまった。
「・・・は?突然なんだい?」
しかし、ステイルはその声の震えには気づかなかったようで、ただ怪訝そうに返してきた。
「だって、お前、俺のこと嫌いだろ?なのに、責任ってだけで、こんなにいろいろ面倒見てくれて・・・ありがとな。」
嫌い、その自分で言った言葉に、なぜか胸がズキンと痛んだ。
一緒に闘ってきた。
だけど、仲良くなれていない。
自分は、ステイルと仲良くしたいのに。
「・・・そうだね、嫌いだよ。」
ステイルの返答は、想像していた通りなのに、少しだけ泣きたくなった。
不意に、クシャッという音が聞こえ、ステイルが立ちあがった。
「僕はもう寝るよ。君は?」
「あ、うん、寝る・・・。」
当麻がそう答えると、ステイルは問答無用で当麻を引っ張り、コップを回収して、ベッドへと押しこんできた。
そして、ステイルはというと、自分が寝るために布団をテキパキと引き始める。
「おやすみ。」
そして、電気が消されて、ステイルは寝てしまった。
どうやら怒らせてしまったようだ。
「・・・おやすみ。」
怒っても言ってくれた言葉に、当麻は小さく返し、自分もベッドに横たわる。
(難しいなー。)
どうやったら、ステイルと仲良くなれるのだろうか。
(仲良くしたいって、もう一度言ってみようか?)
オルソラの事件の時、一度だけ言った気がする。
だけど、あの時は軽く流されてしまった。
(でも、助けてくれたんだよな・・・。)
ピンチの俺を助けてくれた、ステイル。
(カッコよかったなー。)
まるで、ヒーローみたいだった。
思い出して、思わず顔をにやけさせる。
(俺を、助けてくれたヒーロー。)
その彼が、今、自分の傍にいる。
(今度は、俺が、ステイルのヒーローになれたら、いいな・・・)


ふと、目が覚めてしまった。
瞼を開けると、暗闇が広がっていた。
今は夜で、目がまだ暗さに慣れていないんだと思った。
しかし、暗闇は暗闇のままで、目に何も映してくれなかった。
そこで気付く。
自分の目は見えなくなったのだと。
(・・・ステイル・・・。)
その事実に気付いて、なぜか最初に思い出したのは、彼の存在だった。
(ステイルは、まだ寝ているのか?)
確かめたいが、何も映さないこの目では無理だ。
だから、当麻は耳を澄ましてみた。
ステイルが、寝ているなら、寝息が聞こえるはずだから。
しかし、いくら耳を澄ました所で、物音一つ、聞こえなかった。
「ステ、イル・・・?」
途端に、恐怖が湧きあがって来た。
暗闇の中に一人ぼっち。
どんなに、目の前が闇に閉ざされようと、当麻は平気だった。
なぜなら、ステイルがいたから。
ステイルが話しかけてくれて、手を握ってくれたから。
傍にいてくれたから。
好きな彼がいたから。
しかし、彼がいない。
当麻は起き上がり、音を探る。
「ステイル?」
どこにいるんだ?
「上条当麻?」
カラッとベランダの窓を開ける音と、ステイルの声。
「どうしたんだい?」
少し心配そうな声が近づいてくる。
「あ、いや、えーと。」
暗闇に1人が怖かったとは、照れくさくて言えない。
「起きたら、お前の気配がないから、どうしたのかなーって。」
誤魔化したが、嘘は言っていない。
「ああ、ベランダで煙草を吸っていただけだよ。」
カサカサと何かを振る音が聞こえた。
たぶん、それはステイルが愛用している煙草なのだろう。
「そっか・・・。」
思わず、安堵の声が出てしまった。
「なんだ、僕がいなくて寂しかったのかい?」
ステイルの挑発的な言葉に、当麻の頭に血が上る。
「なっ!暗闇に1人は怖いに決まってるだろ!」
言ってしまった。
自分の顔が熱くなるのが分かる。
また、からわれるのだろう。
君は子供か?とか言われるのだろう。
「・・・その気持ちは、分かる。」
しかし、ステイルの返答は意外なものだった。
「まぁ、僕の場合は、絶望と言う名の暗闇だったけどね。」
当麻はいつの間にかステイルを抱きしめていた。
「もう、お前は1人じゃない!もうインデックスは記憶を失くさないんだ。たとえお前の事をインデックスが敵だと思っていたとしても、誤解なんてすぐに解ける。その証拠に普通に話せてるだろ、お前達。昔の思い出は戻らないかもしれないけど、これからの想い出は作れるんだ。」
見えないから、不器用な抱き方になってしまったが、当麻はしっかりとステイルを抱きしめた。
「だから、だから、もう、お前の絶望は、幻想の様にぶっ殺していいんだ!」
「・・・ん。」
ステイルは当麻の肩口へと頭を置いてきた。
全身の力を当麻へと預けている。
「君は、本当に説教くさいね。」
「うるせー!だったら、説教したくなるような事言うな!」
せっかくステイルのためを思って、自分の言葉で、精一杯の励ましを言ったのに。
これは酷いんじゃないだろうか。
ステイルは、当麻の反応が面白かったのか、クスクスと笑っている。
「・・・なぁ、ステイル、俺も・・・。」
「ん?」
ステイルは笑うのを止めて、当麻の言葉を聞こうとしてくれた。
「俺も、お前との思い出、作っていいか?」
ステイルとの出会いの記憶は無くなってしまった。
その想い出はないけど、これからの想い出をステイルと作りたい。
「・・・考えてあげても良いよ。」
ステイルが小さく呟いた。
頬笑みを含んだ声で。
 

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暗闇でも見える君 ③

寮に帰ると、なぜか扉に鍵がかかっていた。
ステイルがドアノブをガチャガチャと回す音がするが、開く音が聞こえなかった。
「インデックスはいないのかい?」
ステイルの問い掛けに、当麻は首を傾げるしかなかった。
とりあえず、鍵をポケットから取り出し、ステイルに渡す。
ガチャリと鍵が開く音がして、扉が開く。
「靴はここで、段差があるから気を付けるんだ。」
ステイルの言葉に、当麻は靴を脱ぎ、確かこの高さだったはずと、経験を頼りに玄関の段差を登った。
パチリと照明を点ける音がした。
どうやら、本当にインデックスはいないようだ。
「・・・書置きがあるよ。」
カサッとステイルが何か、紙を持ちあげる。
「土御門舞夏って子からだね。飢えていたインデックスちゃんは、土御門宅で夕飯の後、寝てしまいました。だそうだ。」
ステイルが、インデックスちゃん、と言うが可笑しくて、笑うのを耐える事がちょっと苦しかった。
「そ、そうか。だったら、都合がいいや。こんな目、あいつに見せたら心配するだろうし。」
当麻は自分の目に手をやった。
手は、医者に盲目って分かりやすいようにと巻かれた包帯に触れた。
「でも、明日にはバレルだろうけどね。」
「・・・だな。」
当麻は頷き、明日の事で気を重くした。
絶対に騒ぎ、インデックスを巻き込まなかった事に怒られるのだろう。
「土御門にメールで説明して、上手く帰らせないようにするか・・・。」
それが一番だろう。
「じゃあ、僕の方から送っておくよ。」
ステイルは携帯を開き、何やら操作し始める。
操作しながら、ステイルは当麻の手を引く。
座れと言う意味だろうととり、当麻は床へ座った。
その時、ステイルの手は離れてしまった。
当麻は残念に思いながら、手を前にやると、何かにぶつかった。
手触りからして、ちゃぶ台だ。
「あぁ、残念ながら、僕は和風の料理は作れないから、洋風で我慢してくれ。」
ステイルの声が遠くで聞こえた。
「おう。」
どうやら、ステイルの手料理が食べられるらしい。
お土産に手作りのスコーンを貰った事はあったが、おかずは初めてだ。
人の手料理と言うものは、誰のものでも、なんだか楽しみだ。

トントントン・・・

包丁で、何かを切る音が聞こえてきた。
(あ、やる事がない・・・。)
暇な時間は漫画を読むか、ゲームをやるかだったが、目が見えないのでは出来ない。
テレビを点けよう、と思ったが、リモコンがどこにあるか、分からなかった。
仕方なく、机に突っ伏し、ステイルが料理している音を聞く。
野菜を切って・・・
フライパンで炒めて・・・
煮込んで・・・
何を作っているのだろうか・・・。
「上条当麻?」
ステイルの声で、目が覚めた。
どうやら、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「あ・・・わりぃ・・・。」
当麻は上半身を起こしながら、目をこすろうとして、包帯がある事を思い出した。
しかし、すぐに、その包帯は外された。
「家では必要ないからね。」
どうやら、ステイルが取ってくれたようだ。
「サンキュ。」
「ああ・・・とりあえず、夕飯ができたよ。」
言われて、良い匂いが漂っている事に気づく。
「・・・ビーフシチュー?」
「正解。」
当麻の言葉に、ステイルは小さく笑った。
「すっげー美味そうな匂い!」
この前当麻が自分で作ったビーフシチューよりも美味しそうだ。
カチャ、と食器の音が聞こえ、フー、と息を吹きかける音が聞こえた。
「はい、口を開けて。」
何でしょうか、この状況は。
明らかにステイルは、シチューの入ったスプーンをこちらに差し出している。
まるで、恋人のように。
「・・・・・・・・あ、あーん。」
当麻は戸惑いながらも、口を開けた。
すると、トロリとした暖かいモノが口の中へと入れられる。
ビーフシチューの味が口全体に広がり、噛むと、ニンジンの甘さが舌を刺激した。
飲み込み、当麻は声を上げた。
「うまい!!」
「それは何よりだよ。」
ステイルの反応は素気ないが、当麻は気にしなかった。
「あーん。」
おかわりを強請るために、当麻は口を開ける。
今度はジャガイモが口の中へと入って来た。
ほくほくした食感がシチューと絡まり、なんとも言えない美味しさが広がる。
次に入って来た牛肉は、噛めば噛むほど、美味しさがにじみ出てくる。
付け合わせのサラダも、ステイルオリジナルのドレッシングが美味しかった。
そして、完食。
「美味かった・・・。」
食器が片付けられた机に突っ伏し、当麻は幸せに浸っていた。
「別に、普通の味だと思うんだが・・・。」
ステイルの呆れた声がキッチンの方から聞こえてくる。
水が流れている音が聞こえるので、食器を洗っているのだろう。
「イギリス人はいつも、こんな美味しい物を食べているのか!?」
「むしろ、僕は、君がいつもどんなものを食べているのかが、気になるんだが・・・。」
「・・・・・・・・。」
ステイルの言葉に、当麻は何も返せず押し黙る。
1人暮らしだから仕方なく自分で料理はするが、正直、まぁ、美味しいかな?程度の腕である。
得意料理は、自身がある。
素麺の茹で上がり加減には、うるさいのが当麻だ。
「ただ、ルーの裏に書いてある手順どおりに作っただけだよ。」
「・・・面倒で、炒める工程を飛ばすからな・・・。」
違いはそこかと、当麻は納得した。
いつもインデックスがお腹すいたと急かすので、時間短縮のため、いくつかの手間を抜いてしまうのだ。
「炒めないと、牛肉と玉葱のコクが出ないと思うんだが・・・。」
「・・・以後気をつけます。」
当麻はステイルの方を向いて言った。
食器洗いが終わったようで、ステイルの声が近くから聞こえていた。
「・・・ついてるよ。」
呆れら声に、当麻はキョトンとする。
すると、不意に口にティッシュの様なモノが当てられ、拭かれる。
「君は子供かい?」
ステイルが笑った。
声で笑ったのが分かったが、その頬笑みを見たかった。
「・・・年下のお前に言われたくねー!」
当麻は思わず怒鳴る。
「だったら、少しは年上っぽくしてみるんだね。」
しかし、さらりとかわされてしまった。
「・・・・・・・。」
反論できずに押し黙ったしまう自分は、やはり、まだまだ子供なのだろう。
だけど、これが普通のはずなのだ。
ステイルだって、もっと子供でいていいはずなのだ。
「お風呂、入れてくるよ。」
そう言って立ち上がるステイルは、やっぱり、自分よりも年上の様で、少しだけ悲しくなった。

 

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