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暗闇でも見える君⑥

昼食の後、ふと思い出した。
「ステイル、昨日言った事だけどさ。」
「うん?」
「ほら、俺もお前との想い出を作りたいって言う・・・。」
「ああ。」
ステイルの気の無い返事に、当麻は躊躇した。
彼にとって、どうでもいい事だったのだろうか。
当たり前だ。
嫌いな相手との思い出なんて・・・。
ぐるぐると考えていると、ステイルが不意に呟いた。
「・・・花火大会。」
「へ?」
「今日、あるみたいだね。」
心臓がドクドクと鳴る。
痛い、だけど、なぜか力が湧いた。
「行こう!一緒に行こう!」
勢いよく言うと、ステイルは驚いた気配を見せた。
ハッと気づき、当麻は俯き、言い訳し始める。
「あ、いや、別に、嫌ならいいぜ。誰も男同士でそんなのに行きたく・・・。」
「良いよ。」
ステイルの言葉に、当麻は目を見開く。
「君と、一緒に行っても良いよ・・・。」
その言葉は信じられなかった。
だけど、とても幸せな言葉だった。
「・・・おう!行こう!」
花火大会は夜の7時から。
今は昼の1時だから、後6時間。
どうしようか。
朝はずっとステイルと話していた。
イギリスの文化を尋ねるフリをして、ステイルの事をずっと聞いていた。
本当はもっと聞きたいが、質問攻めだとステイルも嫌がるかもしれない。
どうしようか・・・。
「さて。」
その時、ステイルが尋ねてきた。
「イギリスや必要悪の教会について、散々教えたんだから、次は日本や学園都市だろう?」
「そ、そうだな!でも、ステイルは日本について結構知っているし・・・。」
自分に教えられる事などあるのだろうか。
「じゃあ、学園都市のカルキュラムって具体的にどんな事をしているんだい?」
「ああ、俺がやったのは・・・。」
6時間など、あっという間に過ぎていた。
おやつを挟んだが、ずっとステイルと話していたら、もう夕方になってしまった。
その頃には当麻の目も、大分見えるようになり、1人で身の回りの事ぐらいはできるようになっていた。
「さぁ、行こうか。」
ステイルが手を差し出す。
まだ、外を1人で歩くのは危険だ。
浴衣なんかなくて、2人とも普段着だが、当麻の胸は高鳴っていた。
「おう!」
ステイルと一緒に花火が見れる。
もうそれだけで、当麻にとっては幸せだった。
道路に出てみると、花火を見ようと会場へ向かう学生で一杯だった。
だから、男2人が手を繋いでる所なんて、誰にも見えないぐらいだ。
手を繋いでいてもはぐれてしまいそうな程の人混みをかき分けて進む。
ステイルの手が痛いぐらいに握られる。
当麻も、ステイルの事を放したくない、そう少しの独占欲を込めて握り返す。
そうして、ようやく着いた会場。
川の片側の土手。
涼しい風が、人混みの熱気を冷ましてくれていた。
「始まるよ。」
ステイルの声と共に、ヒュゥ、と空気を裂く音が聞こえ、そして・・・。
ぼやける視界に色鮮やかな花が浮かんだ。
「あ・・・。」
思わず感嘆の声が漏れる。
直後、大きな、ドン、と言う音に周りのざわめきが一瞬消えた。
「綺麗だな。」
音が聞こえた時を見計らい、当麻はステイルへと声をかける。
「ああ・・・。」
ステイルの頬笑みが色鮮やかに、当麻の目に映った。
ぼやけていた視界が今、晴れた。
完全に見えるようになった目は、ただ、好きな人を映していた。
ヒュゥ
花火が上がり、ステイルの顔が空へと向く。
緑の光がステイルを照らした。
ドン
「好きだ。」
花火の音と共に、当麻は呟いた。
聞こえなかった様で、ステイルの顔に変化はない。
当麻はホッとして、さらに呟いた。
ドン
「好きだよ。」
ドン
「ステイルの事が。」
ドン
「好きだ。」
花火が打ち上がるたびに呟いた。
その呟きは届かない。
届かなくて、いいんだ。
小さな声で、呟き続ける。
ドン
「好き。」
一緒に花火を見上げて。
ドン
「誰よりも。」
君への愛を呟いた。
決して叶わない恋だと知っているから、届かないように。
でも、言いたいんだ。
伝えたいんだ。
ドン
「好きだ。」
 

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